025 わたしの健康法 ミルクセーキ |
出典:サンケイ新聞 昭和50年3月9日 |
森さんは、昨年芥川賞を受賞、最年長受賞者として話題を呼ぶと、テレビのインタビュアーにかつぎ出されるなど、たちまち忙しくなってしまった。いまも、雑誌の連載二本のほかにテレビやラジオのレギュラーを四本もっている。 髪は黒くてふさふさ、トレードマークのタートルネックのセーターが若い。だが健康のヒケツをきくと─ 「それが…ぼくは何も食べないんですよ。ただ、ウシの子みたいに朝昼晩、ミルクセーキを飲む…」 午前七時、正午、午後九時、家にいる限り欠かしたことがないというその自家製ミルクセーキをご披露願うと─ 「材料は牛乳カップ二杯、卵二個、卵白も使います。それに砂糖をスプーン(大さじ)一杯。ミキサーでサーッ、一回分ができあがり。ぼくはやりませんが、レモンやハチミツを加えるとおいしいらしいですよ」 何も食べないとは言っても、仕事を終えた夜九時に、酒を飲みながら一食だけとる。「きのうはスキヤキにマグロのさしみ、野菜サラダ、納豆、おにぎり。つまみにタタミイワシと南京豆」。けっこう豪華で、好ききらいはないそうだ。 三回のミルクセーキにたった一度の食事、その間、口にするのは紅茶とタバコ五箱だけ。それでカゼもひかず「体重は十七、八貫(六五キロ前後)、身長一七〇センチくらいはあるでしょうか…」みごとな体格だ。 といっても、三年前、突然コップ一杯の血を吐き、声がガラガラになった。一年たってまた血を吐いた。が、どちらのときも、胃カメラを飲んだり各科の精密検査を受けて異常はなかった。「医者もびっくりしていました。“お大事に─”というだけなんだな。受診していない科は産婦人科だけですからね、友だちにはからかわれるし、自分でもわけわからんのです」 わからんから仕方なくかどうか、森さんは自称クスリ魔。どこにゆくときも四、五種類のクスリを持ち歩<。そして、紙の上に赤や黄、だいだい色の錠剤を二個ずつと粉薬一袋を一緒に取り出し、口に水をふくんで一気にほうり込む。「ぼくにとって、クスリはビタミン剤だと思っているから、何のクスリかわからなくても適当にまぜて飲んじゃうんだな」。 十年放浪しては十年働く、そしてまた十年放浪…を繰り返してきたという森さん、「もともと楽天的なのが、精神的に健康なヒケツでしょうね。“思うて益なきことは思いわずらわず”ですよ」。 ミルクセーキと酒・タバコ、そしてクスリ、森さんの“放浪”にはお伴が多い。 |
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