027 私の愛蔵
出典:週刊小説 五月十六・二十三日 合併号 昭和50年5月16日
 ぼくは韓国で育った。先年、韓国に遊んだとき、ふとこの屏風に目をとめて眺め入っていると、韓国の友人が言った。
「『月山』に似てるんですか」
 むろん、ここに描かれている山が、月山に似ているはずもなかった。黙ってほほ笑んでいると、韓国の友人が更に言った。
「『鳥海山』に似ているんですか」
 むろん、鳥海山にも似ているはずはなかった。
 ところが、帰国すると韓国の友人は、黙ってこの屏風を送ってくれた。ぼくは感謝せずにいられなかった。その厚意もさることながら、韓国のこうした山々によって得た心が、月山や鳥海山に真の山の姿を求めることを、教えてくれたことを知らされたからだ。
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