043 “ハメをはずせ”で生きてきた!
出典:高1コース 12月号 昭和50年12月1日
「未だ生を知らず 焉ぞ死を知らん」
作家 森敦
★弟子の子路が死について問いかけてきたときの孔子の返事である。
 二年前の芥川賞受賞の前のことだが、ぼくは山形県の月山という雪深い山にある注連寺という寺で暮らしていたことがある。この寺がひどい破れ寺で、寒くてたまらない。そこで、和紙の祈祷簿で蚊帳みたいなものを作り、その中にはいって乏しい暖をとっていたが、そのときにふと頭に浮かんだのが、この孔子のことばである。そのとき実感されたことは、社会道徳や処世法を説いた孔子もまたほかの宗教者と同じことをいいたかったのではないか、ということだった。現実主義者の孔子も、常に死を念頭においていたのではないだろうか。雪の破れ寺という場であったせいか、ぼくには孔子の気持がひどく身近に感じられた。
↑ページトップ
森敦インタビュー・談話一覧へ戻る
「森敦資料館」に掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。