069 これが私の悪女・悪妻観
出典:週刊読売 五月七日・十四日号 昭和53年5月7日
 知恵というのは悪知恵からはじまるもので、おろかな人に悪女はいないのです。
 悪女というのは聡明であること。能あるタカは爪を隠す、というように、イザという場合には、それまで隠していたツメを出して、お化けになりハンニャになるのが悪女です。
 困ったことに、私は悪女が好きでしてね。悪の魅力は善の魅力より強い、悪の誘惑は善の誘惑より強い──ではありませんか。悪女とはもって生まれた才能で、大学で学んで得られるものではありません。
 こういう悪女を女房に持ったら、こっちは神経を遣ってキリキリ舞い、したがって倦怠期もないでしょう。悪女は、可衰そうだという観念も起こさせないものです。
 悪とは、それほど強いもので、だから礼賛されないのですね。
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