078 私と時計
出典:スイス高級時計 昭和54年11月15日
 ぼくの場合は、昭和48年下期の芥川賞(受賞作『月山』)受賞でインターナショナルを頂いたんですが、とてもいいですよ。品もいいしね。別に金じゃないし、銀でもなし、普通のなんですが、精巧で、狂いませんし、デザインもとりたててどうということはないと思うんですが、でも、ぼくが気まぐれにはめていくと、人は不思議にわかると見えて、「あっ、インターナショナルをお持ちですか」とよく言われますよ。それでまた、皆さん、芥川賞で貰った物とは思わないですね。ぼくが買い求めた物だと思っているようです。
 ですから、いや、これは芥川賞で貰った物だと教えると、「そうですか、いい物を出すんですねぇ」と感心してますよ。
 ぼく自身は、このインターナショナルと日本製の物と腕時計はチャンポンではめているんですが、ずっと以前には懐中時計のウォルサムを持っていて、得意になっていたもんです。当時、鉄道員が時刻を合わせるのに使っていたのを、あまりに素晴らしいので譲って貰ったもんなんですけどね。これはいまなかなかないと思いますよ。骨董品としても相当な値打ちじゃないですか。
 インターナショナルも、思い出の深い受賞で頂いたものだし、とてもよい時計だと思っていますので、骨董品になるまで使っていきたいと思っています。(談)
↑ページトップ
森敦インタビュー・談話一覧へ戻る
「森敦資料館」に掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。