084 80年代を語る 女性の社会進出進む
出典:リクルートタイムス 昭和55年9月1日
 八○年代は文字通り“不確実性の時代”になるだろう。まさに、かつての政治家が語ったように“一寸先は闇”、このことばがピッタリくるのが、これからの日本の状況だ。
 しかも、日本は解決せねばならない問題を山ほどかかえて、この不確実な“八〇年代”を乗り切ろうとしている。
 そのなかでも一番の問題は、やはりエネルギー問題ではないだろうか。石油の安定供給が年々困難な状況になりつつある現在、代替エネルギーをどこに求めるのかが最大のテーマであることを、いまさら繰り返す必要はないかもしれない
 たとえば、太陽エネルギーや地熱エネルギーといった大自然の余りあるクリーンなパワーの実用化には、まだ時間が必要だし、石炭をゾル状にして、石油と同じ状況で使用する石炭の液化も、技術的問題とともに公害の再発といった課題を克服しなければならない
 そこで、現時点で石油に代わる実用可能なエネルギーを求めるとすれば、やはり原子力しかないのではないか。
 むろん、これとて放射性廃棄物問題が一〇〇%解決されたとはいえないが、原子力に頼らざるをえないのが、現在の日本の置かれている状況ではないだろうか。
 もっとも、エネルギー危機のなかで、日本人はただ漫然とかまえていたわけではない。たとえば、高度経済成長から安定成長への転換の過程で、各企業は減量経営を余儀なくされたわけだが、日本の企業はこれを契機に“省エネ技術”を一段と飛躍させた。これは、いうまでもなく日本人が消費経済から省エネ経済へ頭を切り替えることができたからにほかならず、そのおかげで、日本はアメリカに次ぐ世界第二位のGNPを誇る経済大国の地位を保ってきたといえよう。
 しかし、新たなる問題が生じてきている。それは“日本経済だけが良くなればいい”という考えが強すぎたためか、他国との貿易摩擦を考慮していなかったという点だ。
 八〇年代は、一国の利益のみを考え行動する時代ではないということを忘れずに、アメリカ、ECなど諸国と対応しつつ、国際的視野に立って、ともに発展していこうという考えが必要ではないのだろうか。
 ただ八○年代が不確実な時代といっても、女性の社会進出がこれまで以上に進むということは確かにいえることではないだろうか。これまでは“すぐ辞める”とか“頼りがいがない”などの理由から、企業サイドの四年制女子大生の採用意欲はあまり高くはなかった。が、女性の労働に対する意識も以前の“腰掛け型”から“モーレツ型”に変化し、これまで内に秘めていたパワーが一挙に噴出する時代になるだろう。
 たとえば、こういう話がある。ある企業で採用試験を行ったところ一番から二十番までの成績を占めたのは全員女性だった。そこで、その企業では二十一番目の男性から採用した──。八〇年代には、優秀な人材を女性だからという理由だけで採用せず、男性だから採用する、こういった理不尽なことはなくなっていくのではないだろうか。
 以上のようにエネルギー問題、日本企業の国際化問題、女性の社会進出が、八〇年代の諸問題といえよう。このような環境下、就職する大学生諸君は、どこの大学を卒業したかが、その人の人生を左右するのではなく、どこの企業に就職したかによって人生が決まるということを知ってもらいたい。また、社会人になって気づくことは学生時代しか“勉強をやれる時代はない”ということだ。アルバイトもいいが、クラブや勉強にも精を出して“不確実な八○年代”を乗り切れる素養を身につけてほしい。
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