102 ひととき ひとこと
   朝鮮が統一・繁栄すれば 日本も繁栄しますよ
出典:朝鮮画報 9月号 昭和56年9月5日
「あなた、奈良にいらしたこと、ありますか? あの法隆寺のあたりをですね。ブラブラ散歩してごらんなさい。あー、朝鮮に帰ったなって気がしますよ。ソックリなんだな。ぼくは朝鮮が好きなんですよ。こんなこというと、差別とか区別とかいわれるかもしれませんけど、なつかしい故郷みたいなもんでね」と、しみじみ語る。
 日本で関東大震災が起き、朝鮮人大虐殺がおこなわれた時には、朝鮮にいた。そこでもやはり“朝鮮人の暴動が起きるから集団登校せよ”ということは、あったらしい。
 「まったく呑気に過ごしていたんですよ。報道なんかも完全に隠されていたんですね。ぼくは子供でしたから、国家理念とかイデオロギーとかで人をみることもなかったし、出会った朝鮮人はみな非常に優秀でりっぱで、今も尊敬していますからね」
 朝鮮にたいする愛着は理念を越えて体から湧き出てくるような、純粋なものだという。
「亡くなった立原正秋だって、朝鮮人だと知っていたら、いろいろと話したりきいてみたいこともあったんだけどね。古賀政男さんなんかも非常に朝鮮が好きで、よく朝鮮人歌手の身元引き受け人になって可愛がっていましたね。ただ歌手はどうして日本の名前でデビューするんだろうね」
 一年ほど平壌に住んだことがあり、中学校の修学旅行では、開城の“善竹橋”に行った記憶もあるという。
「北の方へは、どうやったら行けるんですか? ぼくの作家仲間にもね、行きたがってる人が沢山いますよ。ぼくは三八度線へは南の方からいったんですけど、こりゃいかんと思ったね。笑っちゃおれないんだよ。哨兵たちは、同じ同胞を敵としているんですから」
 昔、朝鮮や満州があるから日本は喰っていけるんだと、侵略思想で教育されてきた少年は、今、朝鮮分断の悲劇は、日本の侵略がもたらした結果であると語る。
「今、朝鮮が独立したって日本がやっていけるということは、昔の考えがいかに間違っていたかという、何よりの有力な証拠ですよ。朝鮮は北の方には鉱物資源がいっぱいある、南には穀物があり、一つになってバランスがとれる。すばらしい国になれるんです。今もまだ、朝鮮が二つに分かれて争っていてくれるから、こっちは助かるんだというようなケチな考えをする日本人がいますが、朝鮮が一つに結ばれて本当の意味で繁栄していけば、日本のためにもなりますよ」
 世界で一番キレイなのは朝鮮人、日本で最高の仏像の顔も朝鮮人のもの、日本人に良いところがあるとすれば、歴史的に朝鮮人と混血してきたからだと、断言してはばからない。
 小説『天上の眺め』の中には、朝鮮人に間違えられたエピソードが出てくる。ズボンの端からシャツを少しのぞかせ、自ら紅茶を入れながら、真剣に尋ねる。
「ぼく、ホントにそんな顔してるかね」、と。
                                                  (朴)
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