124 いい男 いい女
   高野悦子さん(岩波ホール総支配人)
   女らしさを失わない果敢なパイオニア ●森敦(作家)
出典:かくしん 昭和58年6月1日
 高野さんは背のスラーッとした美しい人で、いい家庭のお嬢さんだが、いまだに結婚をしていない。よほど心に思うところがあってのことだろう。
 岩波ホールという実験劇場みたいなものが長く続いていて、インテリの支持を受けている。岩波雄二郎さんから岩波ホールの経営をすべてまかされて以来、いろんな試みをやってパイオニアの役割を果たした。収容人員約二三〇人の小劇場でも、いいことなら、その波紋が池の中に広がってゆく。いまでは、私の知る限りでも数ヶ所、地方都市で同じ試みを志す人が出てきている。
 高野さんは、子どもの頃から木登りでもカケッコでも男に負けなかったという。岩波ホールをつくる前に、フランス語もできないのに体当りでフランスに学んだ。果敢な人である。それでいながら男みたいにならない。
 亡くなったお父様を思い出すために一昨年、中国の松花江に行き、お骨の一部を流した。中国の人も感激して、なつかしんでくれたらしい。お母様が肺炎になったら、付きっきりで看病し秘書の大竹さんが心臓を悪くしたら、これまた病院に付きっきりで看病する。おかげで、おふたりとも元気になられた。そういう優しさがある。
 立派な仕事に一生を捧げでいる偉い女性というのは、気が強くて優しくない人が多いものだが、高野さんは違う。親孝行で、なんともいえず優しい。だから、涙もろい。こんなに女性の本来の美しさを失わない人は珍しいので、私は尊敬しているし、懇意にしている。                                              (談)
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