126 わが心のおしん <おしん>に寄せる
   わが家の視聴率は200パーセント! 作家・森敦
出典:グラフNHK 昭和58年7月1日
 <おしん> は、外出先でも朝昼の2回必ず見るようにしています。朝、娘が勤めに出るのを見送る、ほんのわずかでも惜しい気がするのです。だから2度見ないと落ち着かない。
 面はゆいのですが、テレビの前で涙を流すこともあります。
 私たちは、昔から「刻苦勉励」を常に教わってきました。それに、日本人の胸底にある、近松門左衛門以来の古典的伝統の「義理人情」。これらを、その後の歴史の中で、忘れ去ろうとしてきたんですね、老いも若きも。
 ところが、<おしん> は、眠っているこれらの感情を掘り起こす力を持っていたんですね。それが、<おしん>で共鳴を起こした。これだけの人が見ているということは、笑って捨てようとした感情が、まだ私たちの心の中に残っていたことを示しているのではないでしょうか。
「艱難汝(かんなんなんじ)を玉にす」 という諺がありますが、冒頭でおしんの“出世”した姿を見せてくれていることが救いなんです。彼女にふりかかる試練が、どんなに辛くても、不安と同時に安心していられる……。こうした筋立ては、メロドラマの王道だと思います。
 私は、毎日見ていて、すっかり“天才” 綾子ちやんのファンになってしまいましたよ。
(談)
↑ページトップ
森敦インタビュー・談話一覧へ戻る
「森敦資料館」に掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。