009 61歳の芥川賞 森氏「月山」
出典:サンケイ新聞 昭和49年1月17日(木)
 第七十回(四十ハ年度下期)芥川、直木両賞の選考委員会は、十六日よる東京・築地の「新喜楽」で開かれ、芥川賞は森敦氏の「月山」(季刊芸術26号)と野呂邦暢氏の「草のつるぎ」(文学界十二月号)に決定、直木賞は該当作なしと決まった。副賞各三十万円。
 授賞式は二月六日午後六時から東京・新橋の第一ホテルで。
 森氏、は六十一歳で、芥川賞受賞者としては第一回の昭和十年以来最年長である。
 森氏は、タートルネックのセーターに茶のセビロという若々しいスタイルで、記者会見場にあてら
れた東京・新橋の第一ホテルにあらわれた。
 「かつてお世話になった菊池寛さんや横光利一さんと関係の深い賞に選ばれたのは、うれしい。この年齢じゃ、いただけないんじゃないか、と思ってその方が心配でした」と冗談まじりに語る。
 森氏は、明治四十五年一月、熊本・天草生まれ。京城中学を経て、一高を一年ほどで中退。横光氏の知遇を得、同氏の推薦で昭和十年、毎日新聞に「酩酊船」を連載したこともあるが、その後は華やかな舞台では、一切沈黙し、後輩の指導にあたっていた。
 結婚は、二十七歳。病妻を病院に残して、全国放浪の旅に出た。受賞作「月山」も、山形県の月山へ、十五年ほど前に行ったときの体験。「過去のある時点に、現在の自分を置いて、単なる思い出として書くのではなく、人生をもう一度ふみなおしてみたい」という。
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