070 特別展で一般公開
出典:毎日新聞 みえ 昭和58年8月20日(土)
 上野市の芭蕉顕彰会(会長・今中原夫市長)に十九日、作家の森敦氏(七一)=東京都新宿区市谷田町=から直筆の俳句が届いた。同顕彰会が十月に開く芭蕉祭の“目玉”として依頼していたもので、同顕彰会では「今年は芭蕉没後二百九十年。何よりのプレゼントになります」と大喜び。十月十一日から一カ月間、芭蕉翁記念館で開かれる特別展に出品、一般公開される。
 届いた俳句は「子等の漕ぐ声雲に消え湖となる」。また、前詞が「蕉翁が道尋ね終わりて湖畔に宿す」。縦百三十五センチ、横五十六・五センチの画仙紙に記されている。
 森氏に作句を依頼するきっかけは七月中旬。芭蕉翁記念館、山本茂貴事務局長(五九)が講師をつとめる「芭蕉文学講座」で見たNHKテレビの「奥の細道」で森氏が講師をつとめていたことから。森氏は、青春時代を伊賀地方で過ごした作家の横光利一とも親しく、自らも俳句を詠むため、伊賀地方でもファンが多い。朴とつな語りながら、芭蕉や俳句に対する深い知識に感心した山本事務局長や受講生らが、今年の芭蕉祭の記念に、俳句を詠んでもらうことを思いつき、同月末、依頼の手紙を送った。手紙がつくと同時に森氏から電話があり「知人の横光利一からも伊賀上野や芭蕉のことはよくきいていた。喜んで協力しましょう」との返事が届いた早速同顕彰会が、掛軸用の特別あつらえの中国産画仙紙を送ったという。
 届いた俳句は、前詞から、テレビ出演のため泊まった湖畔の宿で詠んだらしい。山本事務局長によると、芭蕉の人物や文学を湖にたとえ、その深さ、大きさを表現した名句だという。
 同顕彰会では、表装し、十月十一目から二日間にわたって開かれる芭蕉祭で披露。また、その後一カ月間芭蕉記念館で開かれる「五庵展」に出品、市民に鑑賞してもらうことにしている。また、森氏には芭蕉祭に出席してもらうため招待状を出す予定という。 山本事務局長は「有名人になると、なかなか俳句など作ってもらえないが、森さんの場合は、簡単に承諾していただけた。人間的にもすぐれた人だと以前から尊敬していたが、再認識しました。今年は芭蕉没後二百九十年にあたり、芭蕉にとってもプレゼントとなる」と話している。
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