071 芭蕉翁記念館に寄贈
出典:朝日新聞 昭和59年5月1日(火)
 芥川賞作家の森敦さん(七二)=東京都新宿区市谷田町=が去年秋、上野市の上野公園にある芭蕉翁記念館を訪れ、その場で筆をふるった俳句がこのほど掛け軸に表装された。「俳聖芭蕉のことや俳文学ならなんでもわかる図書館にしてほしい」と提言、「ひとつ先例をつくりましょう」と寄贈してきた。記念館では、機会をつくり、初公開したいという。
 句は「時雨過ぎ早や島々も遠山も」。「いまぞ松島の大景観現前す」の前詞が添えてあり、縦百四十センチ、横五十五センチの画仙紙に毛筆で書いてある。
 森さんは去年六月から七月にかけ、NHK教育テレビで放映された番組「森敦の奥の細道行」の取材のため、自分も芭蕉の歩いた奥の細道をたどったが、句はその旅の途中に詠んだ作品。
 出演した番組の総集編づくりのため、去年十月十九日、記念館に来た。総集編は翌十一月に放映されている。記念館の山本茂貴事務長が応対し、今後の記念館の運営について助言を求めた。
 森さんは「いまも芭蕉を論ずる人が多い。そういう人の作品をも残らず集め、芭蕉図書館を造ってほしい。ここへ来れば芭蕉や俳文学のことがわかるようになればすばらしい。芭蕉の生まれ故郷にある記念館だから集めやすいのではないか」と提言した。
 森さんは小説「月山」で芥川賞を受賞。テレビ放映が縁になって去年八月、記念館へ「子等の漕ぐ声雲に消え湖となる」の句を贈っており、寄贈は二度目。
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