079 点描 「不思議な巡り合わせ」
    野間文芸賞、新人賞贈呈式
出典:朝日新聞夕刊 昭和62年12月22日(火)
 第四十回野間文芸賞、第九回野間文芸新人賞(野間奉公会主催)の贈呈式が十七日夕、東京・丸の内の東京会館であった。受賞者は文芸賞が「われ逝くもののごとく」の森敦=写真右=、新人賞が「ヴェクサシオン」の新井満=同左=の両氏。
 六月に急死した野間惟道氏のあと講談社社長に就任した夫人の野間佐和子理事長から賞の贈呈。そのあと文芸賞選考委員の安岡章太郎氏が「文章の一行目から存在感があり、読んでいる間中、東北なまりの言葉が頭に響いた。東北・日本海岸の港町が戦後の状況によって消えてなくなっていく様子に、類のない感銘を受けた」と紹介した。
 森氏は「七十五歳ですから、人生も短いので、これ以上やれったってやれない。心身とも書けない境地になったので、このたびのことはうれしい」とあいさつした。
 森氏の「月山」をレコード化したシンガー・ソングライターでもあった新井氏は、「十一年前、森先生から、才能がありそうな顔だ、とおだてられ、下は音楽、上は文学という木にのぼってきた。きっかけをつくってくださった方と一緒の受賞に、人生の不思議な巡り合わせを感じます」と話していた。
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