081 森敦先生 野間文芸賞に輝く
出典:村報あさひ63年1月号 昭和63年1月
 名作「月山」でおなじみの芥川賞作家の森敦先生がこのたび「野間文芸賞」に輝きました。
 この野間文芸賞は、年間の優れた文芸作品に贈られるもので、このたびの第40回の同賞に森敦先生の『われ逝くもののごとく』が決まったものです。
 作品は、『群像』に3年にわたって連載された700ページ近いもので、庄内が舞台となっています。戦争末期から戦後の混とん期の小さい漁港・加茂の日雇い一家と、その家の少女サキを中心に展開する“マンダラ模様”を描いた大作でもあります。
 『われ逝くもののごとく』(講談社刊・A5判、688ページ、上製本)
──受賞の喜び── 森 敦
 「われ逝くもののごとく」の連載をはじめるにあたって、わたしはいささか志があり、それを実現する絶好の機会を与えられたと思った。わが国には幾多の名品名作があり、現在もまた幾多の名品名作が生まれつつある。しかし、それらはわたしの見るところ、独奏としての名品名作であって、交響楽としての名作ではない。たとえ、わたしに名品名作をなし得る力がなかったとしても、敢えてそれを試みてみたいと思ったのがその一つ。
 「われ逝くもののごとく」の執筆は、「月山」の執筆から10年の歳月が流れている。「月山」は華厳のいわゆる一即一切の世界を具現しようとして書いた。しからば、「われ逝くもののごとく」によって、一切即一の世界を具現したいと思ったのがその二つ。
 以上によって、わたしは意図して最後までわたしを出さなかった。いや、敢えて主人公なるものによって、物語ろうとはしなかった。わたしはつねづね対応によって構造をつくり、構造を以って語らしめねばならぬと思っていたから、真の主人公はあまねく善男善女である。
 もしこの度の受賞によってわたしの志が認容されたものとすれば、喜びこれに過ぎるものはない。
一群像1988・1月号より一
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