109 寺の天井で洋画の共作
   故森敦さんゆかりの山形・注連寺
   4画家の制作進む
   一部完成、来春に奉納式
出典:朝日新聞(夕刊) 平成元年11月6日(月)
 七月に急逝した作家森敦さんの芥川賞受賞作「月山」の舞台となった、山形県東田川郡朝日村、真言宗注連寺の本堂の天井に、自分たちの洋画をかけようと、首都圏の画家四人が制作を進めている。このうち、東京都町田市鶴川の木下普(すすむ)さん(四二)が取り組んでいた墨画の作品がこのほど完成した。十一月末に天井に据え付けられる。残る三人の作品も来春には完成予定だ。日本画がほとんどだったお寺の天井を、洋画で飾るのは珍しい、という。
 
 注連寺は、森さんが昭和二十六年夏からひと冬過ごし「月山」を執筆するきっかけとなった、ゆかりの地。昭和五十七年(一九八二)から、毎年夏にここで森さんを囲んで「月山祭」が開かれ、森さんが亡くなったこの夏も、作家の新井満さんや勝目梓さんらが集まって、ありし日の「放浪の作家」をしのんだ。
 寺の本堂の一部には、山形県の画家が描いた花鳥風月や竜などの天井画がある。絵がない四室の天井が傷んできたことから、佐藤永明住職が「修理するのなら、二十一世紀に残る絵を描いてもらえれば」と、知人の埼玉県戸田市新曽、都立高校教諭水野梯次郎さん(四八)に相談し、小野きんの仲介で、四人の画家が決まった。
 木下さんを除く三人は、埼玉県所沢市有楽町の満窪篤敬(みつくぼ・あつよし)さん(四六)、東京都町田市鶴川の久保俊寛さん(四八)、横浜市港北区の十時(ととき)孝好さん(四一)。
 木下さんは鉛筆画に独自の境地を開き、満窪さんは日仏現代美術展などに出品している。久保さんはスペインで個展を開くなどしており、十時さんは安井賞展に出品したりして、それぞれ活躍している。
 天井は約六十センチのます目状に仕切られ、一部屋が八十枚から百三十枚ある。それぞれ一室ずつ担当し、満窪さんと久保さんは一枚一枚の板に描き、十時さんと木下さんは周りを残す「中抜き」で創作している。
 完成した木下さんの作品は、天井のます目二十八枚分にあたる縦約四メートル、横約二メートルの秋田杉を使い、合掌している八本の指を表現した「天空の扉(とびら)」。
 この九月から二カ月間寺に泊まり込み、鉛筆でデッサンしたあと、墨で仕上げた。「天界と俗界の接点にある天井から、本尊の大日如来が現れるイメージで描きました。生涯忘れられない体験。感無量です」と木下さんは晴ればれとした表情だ。
 五月の連休明けごろ、四人の作品の奉納の儀式をする予定だ。
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