037 文壇意外史 ★森 敦著
出典:不明
 芥川賞作家の著者による自伝的色彩の濃い回想記。十九歳の時の新聞小説「酩酊船」以後受賞作「月山」までの四十年間の空白について、孤独どころか好きな地方を転々としていただけだとアッサリ語るあたり面目躍如たるものがある。また少年時代の政治家志望は父の死後、漢籍等の呪縛(じゅばく)から解放されてのち文学志望に切りかえられたといい、旧制一高を中退した心境については、佐藤春夫や菊池寛や横光利一から受けた恩愛の人間関係の中で学生生活とは別の世界に入ったという誇りのゆえであったともらしているのもうなずける。
 その他、生活面で勇気のあった母の影響のこと、作品からみた中島敦とカフカとの関係についての見解、さらに富ノ沢麟太郎の死をめぐる春夫、利一らの文壇裏話等が興味深く語ら れ、著者の縹渺(ひょうびょう)とした人がらがよく出ている。(朝日新聞社、八五〇円)
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