087 大波小波 評論家の音痴? |
出典:東京新聞 夕刊 昭和62年12月22日(火) |
本年度の野間文芸賞は、森敦の『われ逝くもののごとく』(講談社)に、野間文芸新人賞は新井満の『ヴェクサシオン』(文芸春秋)に決まった。森敦の受賞は順当なところだろうが、『群像』(一月号)に載っている選考委員のことばを読むと、この「特異な力篇」(井上靖)の持つ力が、ほんとうに受け止められたのか心もとない気になってくる。 まして野間文芸新人賞のほうは、エリック・サティの音楽を用いた、甘ったるいうまさだけの青春小説に、選考委員の文芸評論家諸氏がコロりと酔ってしまっていて、どうしようもない。 十二月九日の本欄に、ここ十年間、イキのいい新人作家を認知してきたのは、芥川賞の委員ではなく、野間文芸新人賞の評論家であるということが言われていたが、『ヴェクサシオン』程度の甘さに酔っぱらって、それを“新しさ”と思いこんでしまうようではもうダメだ。『ヴェクサシオン』と共に候補作にあがっていた小林恭二や桐山襲の「まぎれもなく力作」(佐伯彰一)である作品を、どうしてもっとまともに読みこめないのか。 すくなくとも、選考委員の「選評」からは、何やらサティの音楽でも鳴って、巧みにまとまっていればいいよといった安易な感性しかうかがえない。『ヴェクサシオン』に関するかぎり芥川賞をやらなかった選考委員のほうが上手です。 それにしても評論家はどうしてこうも音楽に弱いのだろうか。 |
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