054 ああ24歳 放浪への旅立ち
出典:Pocketパンチ 10月号 昭和51年9月1日
 『酩酊船』を書いた頃、檀一雄君が訪ねてきて「ここに秀才あり」と、太宰治君を連れてきた。檀君は太宰君を高くかっていて、それから三人のつきあいが始まった。「三悪人」の「狂乱の時代」だ。
 当時は一作の原稿料で下宿生活が一年できた。僕には横光利一、菊池寛もついていて、それらを親に黙っていたので親からも仕送りがある。割と楽に暮らせた。
 あるとき、ヨタっているよりは奈良に行こう、千年の心が奈良にはあると思いたった。
 僕はアルチュール・ランボーが好きで第一高等学校にいる頃からダンディとデカダンにあこがれていたが、奈良にいるうち、これを捨ててやれと思うようになった。その後、北方民族と暮らしたり、はえなわ漁船に乗ったりするのだが、奈良にいた二十四、五歳の頃は、これからまさに放浪をはじめんとする、画期的な、もっともよい時代だった。
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