077 私は通勤電車をこう利用している
出典:日刊ゲンダイ 昭和54年5月16日(水)
 調布のアパートに住んで飯田橋の印刷所に通っていたのですが、家を出るのはいつも早朝五時すぎ。京王線の始発に乗り新宿駅で山手線に乗り換えて、出社時間まで二〜三時間、環状線をグルグル回っていました。
 原稿を書くためです。だから、冷房車が来たときなど大喜び。ザラ紙を二つ折りにして組んだヒザに乗せ、小説を書きました。芥川賞(昭和48年下期)を頂いた「月山」も、こうして山手線の中で生まれたわけです。
 受賞後はアパートの隣人が引っ越していくたびに部屋を借り足して、竹やぶのそばの部屋で原稿を書いたのですが、風流を気取っても夏は大弱り。風があると原稿用紙や資料が飛ぶし、風がなければ腕の汗で机がベトベト。冷房車のほうがずっと仕事しやすかったですね。
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