086 推薦の一冊
外から見た近代日本(佐伯彰一著 日本経済新聞社刊)
出典:日刊ゲンダイ 昭和55年10月30日(木)
 東京大学の教授で文芸評論家でもある佐伯さんが今年八月に出したエッセー集です。「近代の日米関係─仮想敵としてのアメリカ」「外国人の見た近代日本─幕末明治の文化接触」などのエッセーのほか、岡倉天心が愛した二人の外国女性との問題から、天心はコスモポリタンかナショナリズムを説く「ある国際人の軌跡」も収録されています。いずれも、比較史研究の一端を示すものなんですが、コンパクトに読みやすく説かれていて、僕は仕事の手を休めて一気に読みました。
 なかでも、「明治維新と南北戦争」の章が持に面白かった。この二つの比較は、一見、奇異に思われるかもしれませんが、佐伯さんの手にかかると共通点がくっきりと浮き上がってくるんですね。
 南北戦争当初のアメリカにも日本と同じような『攘夷』ムードがあったこと。また、南北戦争でアメリカが南部と北部に分かれて争ったように、日本でも、幕府側についた会津藩などの北と、薩長側の南とに分かれて戦っていること。そのうえ、戦後処理の仕方や戦後すぐ海外膨張政策に乗り出している点なども、実によく似ている、と指摘しています。
 あとがきで「本書で試みたのは、方法論などにこだわらない、気楽で大らかな比較あそびである」と書いていますが、どうしてどうして、自由な発想で書かれた本書は意外な発見に満ちた貴重な本です。ぜひ一読をすすめます。
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