119 芥川賞作家の「書斎・研究」(抜粋)
出典:読売住宅案内 創刊号 昭和58年3月2日
 女房・子供のために家はある。どうせ亭主の滞在は睡眠の八時間プラスアルファじやないか。残業続きで遅くなれば、たまの子供に「このおじちゃん、だあれ?」なんてね。まるで下宿の住人だ。でも、ちょっと待て。男には男の部屋がある。
 というわけで、書斎・研究。しかもとびきりのプロ、芥川賞受賞作家に書斎を語っていただくことにした。
 
 
 
広い机と良い環境が必要
「あれ(『月山』)は山手線の電車の中で書いたけど、男として、主人として、書斎は絶対に必要だね。別にどこでも作品は書けると思うけど、寝室が体とすると書斎は頭だからね、大事なものなんだ。人間というのは環境によってモノの考え方が違ってくる。ここに入ると、書こうと、そういう気持ちになるんだ。部屋の中としては音がしない、うるさくないこと、それにあまり広くないほうがいい。気分が集中しないから。ただし、机は大きいほうがいいよ。今、三つの座卓を組み合わせた広いヤツを使っている。これは便利だね。この部屋にいるのは大体四時間くらい。僕は朝四時から八時まで電車に乗ってあれを書いた。本気になってがんばれる時間は四時間くらいが限度だよ。え? ここでは寝ない。そのために寝室があるんだから」(森敦、『月山』で四十九年に受賞)
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