007 芥川賞に森、野呂氏
出典:東京新聞 昭和49年1月17日(木)
 創設四十年を迎えた第七十回芥川賞、直木賞の選考委員会は十六日午後六時から東京・新喜楽で開かれた。芥川賞は予選通過九作品の中から、森敦(もり・あつし)氏の「月山」(がっさん=季刊芸術26号)、野呂邦暢(のろ・くにのぶ)氏の「草のつるぎ」(文学界12月号)に受賞が決まった。直木賞は該当作品なし。
 授賞式は二月六日午後六時から東京・新橋の第一ホテルで。なお受賞者には時計と副賞三十万円が贈られる。
芥川賞の選考経過は次の通り。
選考委員丹羽文雄氏の要約によると──最初から森、野呂氏の作品と日野啓三氏の「此岸の家」にしぼられた。「三作ともいいので実に困った」というわけで、最後には投票となった。
 受賞した森氏は昭和十年ごろすでに新聞小説を書いていた人だが、長く書かなかったのに腕が古くなっていない。文章が自由自在でピシャッとしている。長くじっとしていたすごさがあり、特に前半の雪の中の生活はかつて日本になかった清冽(せいれつ)な印象を持っている。「いまさら六十の人に……」という声もあったが、それさえはねのける力があった。
 もう一人の野呂氏は前作は技巧が目に立ちすぎたが、今回はそれをおさえて別人のようによく出来ている。丹羽氏は「私も頭を下げた」と述べた。
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