008 この人 森敦
出典:東京新聞 昭和49年1月17日(木)
◎…「年齢がバレるので、候補になった時、困ったなと思ったんです」と冗談とも本気ともわからない調子で感想の第一声。六十一歳。受賞者としては最年長者である。作品は、山形県月山のふもとにある村の寺で、主人公が一冬を過ごす話。
 選考委員の丹羽文雄氏が「わが国の文学にはなかったような清れつな印象」と激賞した。本来は若い人のための賞なのだが、そうした制約を吹き飛ばす力をもっていたわけ。
 昭和十年、毎日新聞に「酩酊船」を連載したが、その後作品らしいものはあまり発表していない。菊池寛や横光利一らにかわいがられ、いま小島信夫氏らとつき合っているという文学的環境が受賞作を生み出す素地になっているらしい。
 印刷会社に勤務しているが、出勤前に国電山手線を何度も回りながら車中で原稿を書くという。「年をとりたくないので、何事も忘れるように修養を積みました」。
 熊本県天草生まれ。旧制一高中退。おかっぱ頭、とぼけた味が実にいい感じである。現住所は調布市布田三ノ五ニノ五やよい荘。
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