034 ラジオ週評 よく音で再現した「森敦・月山の世界」
出典:読売新聞 昭和51年1月26日
 TBS日曜夜八時に去年の秋から登場している「ラジオ・スペシャル」はJRN各局競作の大型番組ということだが、どうもせっかくの一時間わくをもてあましているようなものが多い。
 第一回のTBS製作「亜星将軍」にしてからが小林亜星を不思議な魅力の持ち主とただただコメントでたたえるばかりで、どう魅力があるのかさっぱり浮き上がって来なかった。正月放送のRKB製作「にっぽん歳時記サバ・サバ・サバ」も、一時間つき合った揚げ句、結局、玄界灘の真冬のサバの超新鮮なところを生で食べるうまさは格別ということがわかっただけであった。
 ところが十八日の山形放送製作「森敦・月山の世界」は、芥川賞作品の現地に取材し、森自身もそこに加わって放浪体験や思索のあとを語ったもの。行きだおれのはらわたを抜いてミイラを作った話について「地元の人たちはかくそうとしているようだが、どんな人でも因縁があれば即身仏になれるというこの土地の人々の考えこそまさに仏教の精神」などと森の重厚な語り口は妙に胸にしみるものがあった。紙の蚊帳の中で冬ごもりする話のバックに流れた吹雪の効果音や原作の一部の朗詠をのせた音楽も、番組によく溶けこんで美しく、死の山月山を舞台とした原作の幽明定かならぬ世界をよく音によって再現していた。
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