058 たばこのキャッチフレーズ
出典:専売 昭和54年4月20日
 北は北海道の宗谷岬から、南は沖縄諸島の最南端まで、文字どおり全国津々浦々から四万三千二百十二通ものキャッチフレーズが集まった。さる一月一日の公募開始から二月二十日のしめ切りまで、応募者は「考えてはいるんだけど事務局の掲げた二十万円の旗が頭の中を右へ行ったり、左へ行ったり、と邪魔するんで……」(広報課Kさん)とか「キャッチフレーズ、考える頭の上にたばこの手、といったスタイルで無い知恵を絞ってはいるのだが……」(企画室Yさん)など、悪戦苦闘して一席に挑戦した。事務局も予想を大幅に上回る応募作に「いやあ、これも、みなさんの積極的なご協力のたまものです」と顔をほころばせながら、はがきの入った段ボールを抱えて大わらわだった。結局、三月十九日に行われた最終審査をもって、四万なにがしかの応募作は二か月余りのささやかな夢を断たれることとなった。ここでは、みなさんの応募作品が、どんな過程でふるい落とされあるいは運良く選に残っていったのか、その審査過程を追ってみた。
第一次審査
 まず、四万通を超える応募作を一案ずつチェックし、生活とたばこ、くつろぎ、人間関係、マナー、など七項目に大分類した。このあと、記録、整理したうえで第一次審査にかけた。
 審査員は、公社の広告を企画、制作している電通、第一企画、国連杜、旭通信社の四社と販売促進課。この一次審査で、四万通が四千七百七十四案にしぼられた。
第二次審査
 当初のキャッチフレーズ開発目的である“生活の中での効用”といったたばこのもつよりベターな側面を端的に表現し、しかもキャッチフレーズとしての体裁を整えていること、との審査基準で一次と同じ審査員により第二次審査が行われ、二百十三案を選出。
最終審査会
 最終審査会は、三月十九日、葵会館六階、紫の間で行われた。
 予定時刻の午後六時、販売促進課鎌田課長代理からの審査委員紹介で始まった。
 作家の森敦(もり・あつし)さん、漫画家の滝田(たきた)ゆうさん、映画監督の深作(ふかさく)欣二さんの特別審査委員三氏と広告四社のプロフェッショナル、公社側四人の計十一氏である。
 審査委員長である立川営業本部長からあいさつがあった後、審査方法について説明があった。
 「第二次審査を通過した二百十三案から審査委員各自十案を選定し、中でも秀作と思われる三案に○印を付して下さい」との説明。
 関係者以外、報道関係を除けばだれがいるというわけでもない小会議室にキーンと緊張感が走った。
 およそ三十分、各審査委員から審査結果が提出された。整理の間審査委員は小休止。
 八時0五分、最終審査の第二段階がはじまった。「第一段階で○印からもれた七十七案を再チェックし、さらに残したい作品はないか」という段階で、四案が復活。
 結局、三十四案が第三段階の審査対象になった。B5判程度の紙に一案ずつ記入された三十四案が、各審査員に手渡された。各審査委員はこの三十四案から五点を選出し、順位づけを行う。
 事務局は、これを一位五点、二位四点……と読みかえ、黒板に掲出された一覧表に記入していく。
 タテの欄にキャッチフレーズ三十四案が、ヨコの欄に審査委員十一人の名が並んでいる。そのクロスしたマス目に五、四などの得点が記入されていく。
 「こちらが審査されているような気がする──」と営業本部長の立川さん。
 「おれ、やっぱりセンスあるんだ」と高得点の作品ばかりを選んだ審査員が言えば「それを付和雷同と言うんだ」と森さんがやり返す。
 三十四案のうち最高得点は十三点。以下、十、九、八……と同点作品が目白押し。無得点は五案のみ。
 第四段階は採点結果の検討と委員相互の意見交換の場。
 この最終段階で各審査委員の個性ある発言が活発に行れた。その結果、一席二十万円の対象は五案にしぼられ、黒板に掲出された。
 各委員ともポーズこそ異なるが、真剣なまなざし。八時四十分「まず、No.1を決めていだだきましょう」との司会者の声に森さんが発言した。
 「専門的な立場からみた代理店の方の考えはどうですか(専門外の)ぼくなどヤジ馬みたいなもの。それがかえって、民衆受けするとも言えるが……」
 「……」
 「僕はナイスディ、ナイス…がずば抜けていると思う」と森さん。
 このようにして、一席以下、佳作までのキャッチフレーズが決まったのだが、特別審査員賞を受賞した“たばこは心の日曜日"が“ナイスディ……”と最後まで張り合い、結局、当初の予定になかった特別賞が設けられることになった。
 なお“応募者全員の中から百名様にキャビンラジオを進呈”との抽せん会は、四月三日、折りしも春の高校選抜野球実況放送が賞品のキャビンラジオから流れる中で警察官立会のもとに厳正に行われた。当選者の発表は賞品の発送をもって代えられる。
【審査委員会】
 審査委員長 立川営業本部長
 特別審査委員 作家・森敦▽漫画家・滝田ゆう▽映画監督・深作欣二
 審査委員
(株)電通・等々力チーフディレクター▽第一企画(株)・青木企画制作局長▽(株)国連社・正木チーフプロデューサー▽(株)旭通信社・渡辺クリエイティブディレクター▽松本営業部長▽志塚管理部広報課長▽池田営業本部販売促進課長
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