067 森敦さんの句届く
出典:朝日新聞 三重版 昭和58年8月20日(土)
 芥川賞作家の森敦さん(七一)=東京都新宿区市谷田町=が十八日午後、上野市の上野公園にある芭蕉翁記念館へ、自作の俳句を画仙紙に書いて送ってきた。松尾芭蕉の奥の細道をたどって歩いた森さんのテレビ番組を見た俳文学会員でもある記念館の山本茂貴事務長(五九)が「記念に一句ほしい」と頼んだところ、快く贈ってくれたもので、記念館では掛け軸に表装し、十月十一日から開く芭蕉特別展で一般公開する。
 森さんの句は「子等の漕ぐ声雲に消え湖となる」。「蕉翁が道尋ね 終わりて湖畔に宿す」の前詞が添えてある。縦一・三五メートル、幅五六・五センチの画仙紙に毛筆で書いてある。山本事務長は「奥の細道を自ら追体験された森さんが、芭蕉の人間性や文学の奥ゆきの深さを感じて詠まれたのだろう」という。
 森さんが出演した番組は「森敦の奥の細道行」のタイトルで、今年六月十三日から七月十一日まで五回、NHK教育テレビで放映された。森さんによると、俳句は放映期間中の六月二十一日、滋賀県大津市瀬田の琵琶湖のほとりにあるホテルに泊まった際作った。小説「月山」で四十八年下半期の第七十回芥川賞を受賞した森さんも、この番組に出るまでは、俳句は詠んだことがなかった、という。展示される、と聞いて「はずかしいね」と照れていた。
 特別展は、森さんの句のほか、「蓑虫庵(みのむしあん)」など芭蕉ゆかりの五つの庵の資料が展示される予定。
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